節税で資金繰りを楽にする決算対策7選
「税金はしっかり払っているのに、なぜか手元にお金が残らない…」
多くの経営者の皆さんが、一度はこんな悩みを抱えたことがあるのではないでしょうか。
こんにちは、税理士の佐藤健一です。
私はこれまで15年間、150社を超える中小企業の経営者の方々と伴走してきました。
その現場で痛感するのは、「節税」と「資金繰り」は車の両輪だということです。
どちらか一方だけでは、会社は前に進めません。
この記事では、私が顧問先で実際に提案し、成果を上げてきた「節税しながら資金繰りを楽にする」ための具体的な決算対策を7つ、厳選してご紹介します。
単なるテクニックの紹介ではありません。
あなたの会社のキャッシュを最大限に守り、未来への投資へとつなげるための経営戦略です。
さあ、今すぐ使える決算対策で、来期の力強いスタートを切りましょう。
目次
役員報酬の最適化でキャッシュアウトをコントロール
役員報酬は、多くの会社にとって最も大きな固定費の一つです。
だからこそ、このコントロールが節税と資金繰り改善の第一歩となります。
現場で15年見てきた経験から申し上げると、多くの経営者が見落としがちなポイントがここにあります。
定期同額給与と事前確定届出給与の基本
役員報酬を損金(経費)にするには、税務上のルールを守る必要があります。
基本となるのは次の2つです。
- 定期同額給与:毎月決まった日に、決まった金額を支払う給与のことです。 いわゆる月給ですね。これは事前の届出は不要ですが、金額を変更できるのは原則として事業年度開始から3ヶ月以内と決まっています。
- 事前確定届出給与:役員への賞与(ボーナス)のように、特定の日にまとまった金額を支払う場合に利用します。 「○月×日に△△万円支払います」と事前に税務署へ届け出ることで、損金として認められます。
報酬設定による税効果と資金繰りインパクト
重要なのは、会社の利益予測と社長個人の税負担、そして会社のキャッシュフローのバランスです。
例えば、毎月の役員報酬を少し抑えめにして、利益が出ることが確定した決算月に「事前確定届出給与」として受け取る設計も可能です。
これにより、年間のキャッシュアウトのタイミングを調整し、資金繰りの安定化を図ることができます。
「私の顧問先でも、月々の報酬を5万円下げ、その分を決算賞与として受け取る形に変更しました。これにより、年間の税負担はほぼ変わらずに、繁忙期の資金繰りが格段に楽になったと喜ばれています。」
顧問先での「年間240万円節税」事例紹介
あるIT企業(年商2億円)の事例です。
社長の役員報酬を年間で200万円増額し、奥様を役員として月8万円の報酬を支払う形に変更しました。
これにより、社長個人の所得税・住民税は上がりますが、会社全体の法人税と社会保険料負担が大きく減少。
さらに、所得が分散されたことで、世帯全体での手取りが年間約240万円も増加し、キャッシュフローが大幅に改善しました。
注意点:賞与とのバランスと届出期限
⚠️ ここが一番重要なポイントです。
事前確定届出給与は、その名の通り「事前」の届出が命です。
株主総会での決議から1ヶ月以内、または事業年度開始から4ヶ月以内の、いずれか早い日までに提出しなければなりません。
この期限を1日でも過ぎると、支払った賞与は損金として認められず、法人税の負担が大きく増えてしまうので、絶対に忘れないでください。
決算賞与の活用で翌期のキャッシュを確保
「今期は予想以上に利益が出た。従業員に還元したいし、同時に節税もしたい…」
そんな時に絶大な効果を発揮するのが「決算賞与」です。
これは、資金繰りの観点からも非常に有効な手段となります。
支給条件と税務上の取扱い(法人税法施行令第72条の3)
決算賞与は、決算日までに支払いが完了していなくても、以下の3つの要件をすべて満たすことで、当期の損金として計上できます。
- 支給額の通知:決算日までに、支給対象となる「すべて」の従業員へ、各人別の支給額を通知すること。
- 1ヶ月以内の支払い:決算日の翌日から1ヶ月以内に、通知した金額を全従業員に支払うこと。
- 損金経理:通知した金額を、当期の費用として会計処理(未払計上)すること。
この「未払計上」がポイントです。
納税は先になりますが、経費を先に計上できるため、納税資金の確保に時間的な余裕が生まれるのです。
「節税しながら従業員満足度アップ」成功例
私の顧問先である建設業の会社では、毎年この決算賞与を活用しています。
期末の利益状況を見ながら支給額を決定し、3月決算であれば、3月31日までに各従業員へ「賞与通知書」を渡します。
実際の支払いは翌月の4月25日ですが、3月期の損金として処理。
これにより、法人税を約150万円圧縮しつつ、従業員のモチベーションを大きく引き出すことに成功しています。📈
賞与引当金との違いと注意点
会計上、「賞与引当金」という勘定科目がありますが、これは税務上、原則として損金には認められません。
税務で認められるのは、あくまで上記の3要件を満たした「未払賞与」のみです。
また、「支給日に在籍する者のみに支払う」といった規定があると、決算日時点で債務が確定していないと見なされ、損金算入が否認されるリスクがあるので注意が必要です。
3月決算企業はいつまでに準備すべきか
3月決算の企業であれば、タイムリミットは明確です。
- 3月31日まで:従業員への支給額通知
- 4月30日まで:全額の支払い
3月に入ってから慌てないよう、2月中には利益予測を立て、決算賞与のシミュレーションを始めておくことを強くお勧めします。
少額減価償却資産の即時償却で経費先取り
「決算間際にパソコンを買い替えた」「新しいデスクと椅子を導入した」
こうした少額の設備投資は、使い方次第で強力な節税策になります。
意外と知られていませんが、この制度を使いこなすだけで、数十万円単位の税金が変わることも珍しくありません。
30万円未満の資産購入の節税メリット(租税特別措置法第67条の5)
資本金1億円以下などの中小企業者等であれば、「少額減価償却資産の特例」を活用できます。
これは、取得価額が30万円未満の減価償却資産について、購入・使用を開始した事業年度に、その全額を経費(損金)にできるという制度です。
年間合計300万円という上限はありますが、非常に使い勝手の良い制度です。
実際の資金繰り効果シミュレーション
例えば、28万円の高性能パソコンを5台、期末に購入したとします。
項目 | 金額 |
---|---|
取得価額合計 | 140万円(28万円 × 5台) |
当期の損金額 | 140万円 |
法人税率30%と仮定した場合の節税額 | 約42万円 |
もしこの特例を使わなければ、通常の減価償却(例えば4年償却)となり、初年度の経費は数万円程度にしかなりません。
期末にキャッシュは出ていきますが、その分、納税額がダイレクトに減るため、結果的に資金繰りを助けることになるのです。💰
「意外と見落とされがちな設備投資」の見直し
この制度の対象は、パソコンやコピー機だけではありません。
- 応接セットやオフィス家具
- エアコンなどの空調設備
- 陳列棚や看板
- ソフトウェア
これらも30万円未満であれば対象となります。
決算前に「何か買い替えるものはないか?」と見直す習慣をつけるだけで、大きな違いが生まれます。
注意点:一括償却との違いと帳簿管理
⚠️ 注意点
よく似た制度に「一括償却資産」がありますが、こちらは20万円未満の資産が対象で、3年間で均等に償却するものです。
30万円未満の特例は「即時償却」できる点が大きく異なります。
この特例の適用を受けるためには、確定申告書に明細書を添付する必要があるため、どの資産に適用したのかをしっかりと帳簿に記録しておくことが重要です。
決算期前の棚卸と在庫評価で利益を適正化
製造業や小売業、卸売業の経営者にとって、在庫(棚卸資産)の管理は頭の痛い問題です。
しかし、この在庫を正しく評価することが、適正な利益計算と資金繰り改善につながる鍵となります。
税務署の立場で考えてみると、在庫は重点的にチェックされる項目の一つです。
在庫評価損の落とし所(法人税基本通達9-1-9)
「もう売れない」「価値が著しく下がってしまった」
そんな在庫はありませんか?
税法では、以下のような事実がある場合、在庫の評価額を下げて「評価損」として経費計上することを認めています。
- 季節商品で、売れ残り今後通常の価格では販売できないもの
- 型崩れ、棚ざらし、品質変化などで著しく価値が下がったもの
- 流行が過ぎてしまい、今後売れる見込みのないもの
これらの在庫を期末に洗い出し、処分可能価額まで評価を下げることで、課税対象となる利益を圧縮できます。
不良在庫・滞留在庫の処理で資金効率アップ
評価損を計上するだけでなく、実際に不良在庫を処分(廃棄)することも重要です。
不良在庫を持ち続けることは、保管スペースというコストを払い続けるだけでなく、管理の手間もかかります。
何より、「死んだ資産」を抱えていることで、会社の資金効率は確実に悪化します。
決算期を機に、思い切って処分することで、倉庫がスッキリし、新たな商品を仕入れるためのキャッシュを生み出すきっかけにもなります。
顧客事例:「在庫圧縮で600万円キャッシュ創出」
アパレル関連の顧問先での事例です。
長年、シーズンオフの衣料が倉庫の大部分を占めていました。
決算前に徹底的な棚卸を行い、今後販売が見込めない商品をリストアップ。
一部は評価損を計上し、大半は専門の業者に依頼して処分しました。
その結果、評価損と廃棄損で約2,000万円の費用を計上し、納税額を約600万円圧縮。
空いたスペースに売れ筋商品を展開できたことで、翌期の売上も大きく向上しました。
リスク管理:税務署のチェックポイントとは?
税務調査で必ず問われるのが、「なぜ評価損を計上したのか?」という客観的な理由です。
単に「売れ残ったから」というだけでは不十分。
- 写真:破損や汚損の状態がわかる写真
- 記録:いつから滞留しているか、なぜ価値が下がったかの記録
- 廃棄証明:廃棄業者から発行されるマニフェストなど
これらの証拠をきちんと残しておくことが、税務リスクを管理する上で不可欠です。
貸倒引当金の活用で将来リスクに備える
「あの取引先、最近支払いが遅れがちで心配だ…」
経営をしていれば、売掛金の回収リスクは常につきまといます。
この将来のリスクに備えつつ、節税にもつなげられるのが「貸倒引当金」です。
これは、いわば将来の損失に備えるための「資金的な予備費」を、経費として計上するイメージです。
引当基準と設定ルールの解説(法人税法施行令96条)
貸倒引当金には、大きく分けて2つの計上方法があります。
- 一括評価(法定繰入率):資本金1億円以下の中小法人が使える方法。期末の売掛金や受取手形などの残高合計に、業種ごとに定められた率(法定繰入率)を掛けて計算します。
- 個別評価:特定の取引先について、倒産や支払遅延などの事実がある場合に、個別に回収不能見込額を計算する方法です。
【業種ごとの法定繰入率】
業種 | 法定繰入率 |
---|---|
卸売・小売業 | 1.0% |
製造業 | 0.8% |
金融・保険業 | 0.3% |
その他 | 0.6% |
「得意先の与信管理と連動」した適正化手法
貸倒引当金は、単なる節税テクニックではありません。
これを機に、得意先ごとの与信管理(取引の上限額や支払いサイトの見直し)を徹底することをお勧めします。
どの取引先にリスクがあるのかを定期的に評価し、その結果を個別評価による貸倒引当金の設定に反映させる。
このサイクルを回すことで、攻め(売上拡大)と守り(リスク管理)のバランスが取れた強い財務体質を築くことができます。
成功事例:資金繰り予備費の確保と金融機関評価の改善
ある卸売業の顧問先では、期末の売掛金残高が8,000万円ありました。
法定繰入率(1.0%)を適用し、80万円を貸倒引当金として損金に計上。
これにより約24万円の節税になりました。
さらに、一部の回収が滞っていた取引先について個別評価を行い、追加で引当金を計上。
金融機関からは、「将来のリスクをきちんと把握し、対策を講じている」と評価され、融資の際の信頼度向上にもつながりました。
注意点:対象債権の選定と監査対策
⚠️ 注意
貸倒引当金の対象となるのは、売掛金や貸付金などの「金銭債権」です。
個人的な貸し借りや、実態のない債権は対象外です。
特に個別評価を行う場合は、なぜその金額を回収不能と判断したのか、客観的な資料(相手先の財務状況がわかる資料、督促の記録など)を揃えておくことが、税務調査への万全な備えとなります。
借入金のリファイナンスで支払い負担を軽減
節税とは少し視点が異なりますが、資金繰りに即効性がある対策として「借入金のリファイナンス(借り換え)」は非常に有効です。
特に、過去に高い金利で借りたローンがそのままになっている場合、見直すだけで月々のキャッシュフローが劇的に改善されることがあります。
金融機関との交渉術と資料準備のコツ
リファイナンスを成功させる鍵は、金融機関との交渉と、そのための周到な準備にあります。
- 事業計画書:なぜ借り換えが必要なのか、それによって経営がどう改善するのかを明確に示します。
- 試算表・資金繰り表:直近の業績と、今後の資金繰りの見通しを具体的に数字で示します。
- 複数金融機関への打診:複数の金融機関に相談し、最も条件の良い提案を引き出す「相見積もり」の姿勢が重要です。
「業績が良い時にこそ、借り換えの交渉は有利に進められる」というのも、私が現場で見てきた一つの真実です。
「返済猶予で月額100万円キャッシュ確保」実例
コロナ禍で売上が急減した飲食店の顧問先での実例です。
複数の金融機関から借り入れていた合計5,000万円の借入金を、メインバンクで一本化するリファイナンスを提案しました。
金利が下がっただけでなく、返済期間を延長し、さらに当初2年間は元金の返済を猶予してもらう交渉に成功。
これにより、月々の返済額が約100万円も減少し、厳しい時期を乗り越えるための貴重な運転資金を確保することができました。
補助金との組み合わせで負担を最小化
リファイナンスを行う際に、信用保証協会の保証付き融資や、各種の制度融資を組み合わせることで、さらに有利な条件を引き出せる場合があります。
例えば、経営力向上計画の認定を受けていれば、低利融資の対象となることも。
常に最新の補助金や助成金の情報をチェックし、金融機関に「この制度は使えませんか?」と積極的に提案していく姿勢が大切です。
注意点:信用格付けへの影響とリスク管理
リファイナンスは、単に条件の良いローンに乗り換える「前向きな借り換え」です。
一方で、返済が困難になってから行う「リスケジュール(返済条件の緩和)」は、金融機関からの信用格付けを大きく下げる可能性があります。
そうなる前に、財務状況にまだ余力があるうちに、先手先手でリファイナンスを検討・実行することが、健全な経営を維持するための鉄則です。
税額控除制度の積極活用で納税額を直接削減
これまで紹介してきた対策は、利益を圧縮して「課税対象額」を減らすものでした。
しかし、これから紹介する「税額控除」は、算出された「法人税額」そのものから直接差し引くことができる、非常にパワフルな制度です。
活用しない手はありません。
中小企業投資促進税制・賃上げ促進税制などの概要
数ある税額控除の中でも、特に中小企業が活用すべき代表的な制度がこちらです。
- 中小企業経営強化税制:経営力向上計画の認定を受け、特定の設備(機械、ソフトウェア等)を導入した場合に、即時償却か取得価額の10%(または7%)の税額控除を選択できます。
- 賃上げ促進税制:前年度より従業員の給与を増加させた場合に、その増加額の一部を税額控除できます。 2024年の改正でさらに使いやすくなりました。
- 中小企業投資促進税制:特定の機械装置などを取得した場合に、30%の特別償却か7%の税額控除を選択できます。
控除対象の条件と申告手続き(法令番号付きで解説)
これらの制度は、それぞれ対象となる企業規模、設備の種類、賃上げ率などの細かい要件が定められています。
例えば、「中小企業経営強化税制」であれば、事前に「経営力向上計画」を策定し、国の認定を受ける必要があります。
手続きが複雑なものも多いですが、その効果は絶大です。
必ず専門家である税理士に相談し、適用漏れがないかを確認してください。
顧問先での「研究費控除で240万円削減」実例
あるソフトウェア開発企業では、自社製品の開発にかかった人件費や経費が「試験研究費」に該当することに気づいていませんでした。
過去に遡って計算し、「研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制)」を適用したところ、実に240万円もの税額控除を受けることができ、社長も大変驚かれていました。
皆さんの会社でも、気づいていないだけで対象になる経費が眠っているかもしれません。
注意点:期限・要件・証拠書類の準備不足リスク
⚠️ 税額控除は、要件を満たしていることを会社側が証明しなければなりません。
申請期限を過ぎてしまったり、必要な証拠書類(計画書、認定通知書、設備の仕様書、給与台帳など)が不足していたりすると、せっかくの権利が水の泡となります。
特に設備投資系の税制は、「設備を取得する前に計画の申請が必要」といったケースも多いため、投資を検討する段階で、どの税制が使えるかをセットで考える癖をつけましょう。
まとめ
ここまで、節税と資金繰り改善を両立させる7つの決算対策をご紹介してきました。
- 役員報酬の最適化:報酬設計でキャッシュアウトを平準化する。
- 決算賞与の活用:未払計上で納税を遅らせ、従業員の士気も上げる。
- 少額減価償却資産の即時償却:30万円未満の投資で経費を先取りする。
- 在庫評価の見直し:不良在庫を費用化し、資金効率を高める。
- 貸倒引当金の活用:将来のリスクに備え、資金的なバッファを作る。
- 借入金のリファイナンス:返済負担を軽減し、月々のキャッシュを増やす。
- 税額控除の積極活用:税金を直接減らす最強のカードを使いこなす。
これらのハックを組み合わせることで、平均的な中小企業でも年間300万〜500万円の節税と資金繰り改善は決して夢ではありません。
まずは、ご自身の会社で取り組みやすい「3. 少額減価償却資産の即時償却」や「2. 決算賞与」の検討から始めてみてはいかがでしょうか。
節税は、単なるテクニックではなく、会社の未来を創るための重要な経営戦略の一部です。
正しい知識を身につけ、賢く税金と付き合っていくことが、事業を成長させるための確かな一歩となります。
この記事でご紹介した内容は一般的なものとなりますので、個別の適用にあたっては、必ず顧問税理士などの専門家にご相談ください。
皆さんの事業の発展を、心から応援しています。